新選組のこと

景色をながめるために時々乗るモノレールから土方歳三の実家が見える....太宰治ゆかりの玉川上水を散歩するときに新選組みの隊旗が目につく....のにも関係なく、司馬遼太郎さんの「街道をゆく」をTVで観たのがキッカケで、新選組にちょっと興味があります。(W


 甲府城を目指して甲州街道甲府へ向かう新選組。幕府の官僚は武闘派の新選組を江戸から追いやる目的もあって、甲府へ行かせたとも考えられますが....一応目的は、官軍より先に甲府城に入って、官軍が江戸へ侵攻するのを甲府で食い止めるため。
 ところが、多摩出身者が多い新選組は多摩各地で歓迎を受けて、その宴のために遅れてしまいます。官軍が先に甲府城を占領してしまうわけです。
 
 この事実に司馬遼太郎さんは興味を持ちます。そして、複雑だけど定まった多摩の人間の見識を推測していきます。
 
 NHK大河ドラマ新選組で、土方を代表に象徴的に繰り返し語られるのは、「俺たちは多摩の農民だ」というセリフ。そのとおり農民である新選組は、本物の武士階級ではないために、幕府をはじめ周囲から武士として認められないこともあり、その分だけ逆に武士らしくあろうと努力していきます。
 その武士の定義をイデオロギッシュに守っていこうとする姿勢から厳しい法度の遵守という情況を生み、多くの隊士が罰せられて、新選組の悲劇となっていきます。
 
 ところで新選組が「多摩の農民」ならば、官軍も薩摩や長州の農民です。
 新選組が幕府に代表される武士階級が支配する制度の中で苦労したように、薩摩や長州の農民も藩内で苦労し、幕府に対しても苦労した存在でした。その苦労は藩内の革命と倒幕への推進力となります。
 
 そして、幕府を倒そうとする官軍という農民の姿は、生命をかけて幕府につくそうとする新選組の姿にオーバーラップします。


 官軍が勝たなければいけない、世の中はそういう風に変わってきたのだ....そんな認識が、世相に敏感だった新選組の中にも、江戸に隣合せて幕府に従ってきた多摩の農民にもあったはずです。
 
 それが、たとえば、甲府城に遅れるという事態として現われてきます。
 つまり多摩の農民は同じ農民である官軍が勝つのが時代の流れだと感じつつ、新選組を歓迎するという態度で足止めし、新選組は歓迎を喜ぶふりをして農民の願望に応えるために遅れた....言行不一致の、心とは裏腹の生命をかけたパフォーマンスを演じ合う新選組と多摩の農民....。
 
 司馬遼太郎さんはそのルーツを豊臣秀吉の小田原攻略に見出します。小田原の兄弟城であった八王子城は陥落しますが、八王子の侍と農民は徳川に帰順し自分たちを召し上げてくれた徳川に対して千人同心の誓いを立て忠誠をつくします。農民であることで認めてもらえない近藤や土方が生命をかけて侍であることを誓った姿のルーツと原型を、司馬さんは見つけたのです。
 
 まもなく新選組は滅びますが、新選組の人脈は、その後の多摩や武蔵の自由民権運動として日本近代化の原動力となっていきます。農民を主体とした官軍に倒された新選組は、その後継の人脈が、地方出身者中心であった明治政府に対して民主主義を要求し、自由民権運動として近代日本のベースをつくっていくわけです。


参考にどーぞ。
勝海舟へのリアルな評価のURARIAさん新選組へのいろいろな疑問はnazegakuさん。NHK「新選組」のキャラ別感想が楽しく読み応えあるSnowSwallowさん
多摩モノレール「多摩新選組紀行」では新選組の地元としてのスタンスから詳細な情報と最新の解釈が読めます。