『メロウ』を読んだ

『メロウ』(田口賢司・新潮社)第14回ドゥマゴ文学賞を受賞。
最初の1ページと3行で、第一印象は決定。
『さようなら、ギャングたち』と『風の歌を聴け』みたいな。
1981年の発表時に「最高のPOP文学」といわれた高橋源一郎さんと、その2年前に賛否両論をまきおこした衝撃的?な作品で登場した村上春樹さん。
『メロウ』を読んでフラッシュバックしたのがこの2人。そして、この2作です。文体も構成もそっくりな感じ。ただし「1ページと3行」の「第一印象」では、だよ。(W
 
もチョットいうと、文体では風の歌風で、シチュエーションというか物語性ではギャング風かも? 世代論的な物言いでいえば80年代か、あの新人類世代のムーブメントの結晶の一つといえそうな感じもします。作者の田口賢司さんは新人類の御三家といわれた人なので、それは当然かもしれませんが、今になって、こういう作品が書かれたことには、きっと、もっと大きな意味があるんでしょ。
 
音楽でいえばPOP文学の登場より10年後れてブレイクしたのが小室哲哉さん。この10年後れたというところに表現体または媒体としての意味があるような気がしますが、それと同じように、スピードと強度が大きな価値であるはずの今なぜ『メロウ』が書かれたのか、わかりにくいけど、わかりにくい分だけ重要な意味があるんじゃないでしょか。わかりにくい無意識が意識の最大のファクターであるし、自覚できない自意識に人が動かされているように、です。
 
『メロウ』のもともとのタイトルは『メロウ 1983』だそうで、田口さんのあとがきによれば

   かつて東京都渋谷区南平台に存在したホテル
   『1983』をめぐるある種の集団的記憶に
   捧げるつもりだったが人々はそんなホテルが
   あったことすら覚えていなかった。

ということ。「その20年後の2003年3月、「メロウ」を書きはじめた」そうで、理由は「メロウなポンコツを目指して」。そういえばポンコツな自動車が好きらしいのは聞いたことがあったりして。