バブルから続く問題意識

 ニューアカが話題になった頃、大塚さんが注目されたキッカケになったのが『物語消費論』(以後『消費論』)で、それを受け継いだものが今回刊行の『物語消滅論』(以後『消滅論』)。そのため『消滅論』のはじめで『消費論』の論点が説明されているのが親切です。こういうところが新人類世代の中で唯一の優しい人という評価がある大塚さんらしさなのかもしれません。
 そゆわけで『消滅論』の最初の部分で『消費論』の2つの側面が紹介され、『消滅論』そのものの問題提起の前提として説明されています。つまり『消滅論』のテーマも『消費論』の2つの側面からはじまっているワケです。その2つの側面が『消滅論』で要約確認されています。

 説話論、物語論の応用によって人々を動員していこうという考え方があった。(P26
 創作という消費の形式がありうるのではないかという仮説の提示です。(P27

ということでバブル当時に大塚さんがどんな問題意識をもっていたかがわかります。
そして今回の『物語消滅論』の2つの大きなテーマは

 物語を創作・消費していく過程で、作者や読者のあり方、ソフトとしての物語のあり方が、現時点でどのように変わってきてしまったのか、あるいはこの後どうなっていくかということについて、(P10
 複雑化した世界を説明できる新しいイデオロギーはあるのかといえば、ない。それはどうも「物語」の因果律が採用されてしまいつつあるとぼくは感じています。そのことの意味と問題(P11

以上をもとに論議を深めていった大塚さんがたどり着いた結論が

 ぼくは本書の中で近代的言説としての「文学」の復興や、
 社会工学的技術としての「文芸批評」を擁護する、
 という予想外の結論に到達しました。(P218

というもの。
 テクニカルなアプローチが求められるという真っ当な結論で、大塚さんだけではなく、
今後のさまざまな言説に期待ができるトレンドが顕在化しているのかもしれません。
 たとえば人間関係をモノゴトを媒介にした関係だとする経済学にも普遍経済学や経済物理学のようなものも登場しつつあります。


「極私的図書分類ブログ」書評『物語消費論』の鋭い指摘が参考になります。